本項は海外の文献の内容紹介をもとにした解説であり、言及されるテストステロン製剤が日本国内で入手・利用できることを保証しません。

国内の入手状況や使用感(ジェルだけでは不十分で鬱症状が出る、パッチでは皮膚が炎症を起こしてしまうなど)については当事者の方がよくご存知のはずですので、共有していただける情報がありましたらぜひよろしくお願いいたします。

幼少期の男性ホルモン低下に対して

多くのクラインフェルターの方では、心身の基本的な特徴を方向づける胎児期から男性ホルモン濃度が大幅に低い状態であったわけでははありません

精巣の内部構造を詳細に検討した近年の研究では、胎児期から対照群の方とは構造上の変異が認められることが分かっています (Winge et al., 2020)。しかしながら男性ホルモン濃度の低下がこの時期から見られるかは、個人差や研究報告により差があり結果は一貫していません。
そのため、子どもの頃から見られる性格や認知の特徴は胎児期の男性ホルモン依存というよりも、性染色体数の過剰に起因する遺伝子発現/抑制の特異性に起因するものが大きいと考えられています。DNA非翻訳領域(それ自体はタンパクをコーディングしていない)や、常染色体上の遺伝子発現/抑制にも特徴が見られることが分かっており、クラインフェルターの方の持つ多様な症候群との対応が調べられています(Skakkebæk et al., 2018)。

割合は少ないですが、マイクロペニスや停留精巣が見られる方の場合は、胎児期から男性ホルモン濃度が低い状態にあったことが推測できます。

出生直後の3ヶ月間には男児には通例、男性ホルモン濃度の大量分泌が見られます(mini-puberty)。この期間に関してもクラインフェルターの方でテストステロン低下が見られるかどうかについては結果が一貫していません。マイクロペニスの症状により胎児期からの男性ホルモン不全が推定される方に対して、乳幼児期にテストステロンを投与することにより認知発達によい影響を与えることができたとする報告があります。
しかしながら、クラインフェルターの方の中では性別違和を持つ方も、非クラインフェルターの方と比較して多い傾向がありますので (Fisher et al., 2015)、幼少期から男性ホルモンを投与して不可逆な影響を与えることが本人にとってベストな選択であるかを判断するためには、慎重に状況を判断する必要があると思われます。

クラインフェルターの方に見られやすい認知の特徴として、言語発達や記憶・実行機能が弱点になりやすいです。
一部の方に知的障害が見られますが、男性ホルモン濃度や性染色体の異数性にともなう一般的な遺伝子発現の変化というより、特定のゲノムパターンの繰り返し数が変化している Copy number variation が直接的な及ぼしている可能性が指摘されています (Le Gall et al., 2017)。Copy number variationは突然変異を受けやすく、血縁者と異なる個々人の特性を生じさせます。

認知や行動の特徴と男性ホルモン補充

認知特性や脳部位の体積に与える影響を、他の性染色体異数性を持つ方(XXX女性、XYY男性、Xを3本以上持つクラインフェルター)との比較により検討すると、男性ホルモン濃度の作用よりも性染色体の数の方が直接的な影響が大きいように見受けられます (Leggett et al., 2010)。

さらに、クラインフェルターの少年・大人の方の認知機能領域に対してテストステロン補充がどのような効果を及ぼすかについては十分なエビデンスが蓄積されていないのが現状ですが、言語の流暢性を高めることができるという報告があります。

テストステロン補充の及ぼすより一般的な効果として、行動上の問題を改善し活力を与え、健康感や学習能力を高めるとされています。テストステロンを処方する医師も、クラインフェルターの方のQOLを高める効果があることを実感しているようなのですが、厳密に比較対象群を設定した調査や縦断調査(同じ人がホルモン前後でどう変化したか)の報告が存在しないため、国際的に見てもクラインフェルターの方に対するホルモン補充療法の基準ができていません。これは当事者の方が医療機関で適正なサポートを受けづらい(そして、医療機関や研究者は例数を集められない)という悪循環も生じさせていると思われます。

一般的に期待される効果

ランダム化された試験や評価方法の統一は行われていないものの、テストステロン補充を行うことにより、クラインフェルターの方の75%が持久力と体力の向上、倦怠感・睡眠障害・集中力・学習効率の改善、気分・いらいら・他者との関係性の改善をみたと報告されています。貼り薬(パッチ)により性機能、性的欲求の向上と疲れの軽減の効果も見られています。

性腺機能が低下している高齢男性に対する男性ホルモン補充は、除脂肪体重を増加させ、脂肪量を減らし、骨塩密度を高めます。クラインフェルターの方に対する効果も同様であると考えられるため、大部分のクラインフェルターの方には男性ホルモンの補充が勧められます。
思春期前後にテストステロンの補充を始めるならば、男性としての第二次性徴を促し、筋肉や骨量を確保するのに役立つでしょう。

補充方法の選択

テストステロン補充の方法には経口・経皮・筋肉注射の選択肢があります (Høst et al., 2014)。

経口

テストステロンウンデカネート(アンドリオール)
親油性で部分的にリンパ系から吸収されるため、最初に肝臓で代謝されるのを回避し、肝臓への負担を軽減することができる。1日2~3回に分けて服用、各40mg。服用4時間後にピーク濃度に達するが、同じ人でも日によって濃度変化には大きな違いがある。

経皮

テストステロン(テステム、テストジェル、トストラン)
50, 75, 100mgを含むジェルの塗布が広く選択されており、24時間以内に10%が吸収される。
パッチ(アンドロダーム、テストダーム)も存在するが、血中テストステロン濃度の安定性ではジェルに劣り、また皮膚を痛める可能性がある。

経皮補充は最初の肝臓での代謝を回避し、血中のホルモン濃度を安定的に保つのに効果があるが、個人差がある。
テストステロンジェルを使う場合、塗布後4-6時間は塗った場所を濡らしたり、他の人と皮膚接触をしたりしないように気をつけなければならない。特に、女性や子どもに予期せずテストステロンを遷してしまわないように注意すること。

経頬

テストステロン(ストリアント)
口中の頬の内側に貼り付ける形式。口腔粘膜を通じて吸収させることにより、消化管で吸収されて肝臓により不活性化されることを防ぐ。デメリットとして、歯茎へのダメージが16%の男性に見られることと、キスなどで他の人に遷してしまう危険性があげられる。

筋注

テストステロンエナンテート(テストヴィロン)/テストステロンシピオネート
もっともコスパがよく、またもっとも長く使われてきた歴史を持つ。
2-4週間ごとに250mgを注射、血清中濃度はその2-3日後にピークに達する。注射後10日で最低血中濃度に達する。
容量を上げるとピーク濃度を上げ、長く効果を持続させることができるが、濃度のアップダウンによる心身症状が生じる可能性がある。

テストステロンウンデカネート(ネビド)
1000mgをオイルエマルジョンとし、通常12週おきに注射する。しかし近年アメリカ食品医薬品局(FDA)により肺油微小塞栓症(PMOE)やアナフィラキシー反応を引き起こす懸念が表明され、認可が取り消されている。

皮下移植

テストステロン(ストリアント)
400-800mgを含むペレットを、4-6ヶ月おきに皮下挿入する。ピーク濃度に達するまでに1ヶ月かかる。ペレットが自然に飛び出してきてしまうことがある。

臨床上の効果が見られているか、またテストステロンが過剰もしくは足りていない兆候がないか、モニターしながら補充療法を進める必要があります。
また、副作用の出現にも注意をはらわなければなりません。ヘモグロビン値の上昇、睡眠時無呼吸症候群、にきび等です。


References

Fisher, A. D., Castellini, G., Casale, H., Fanni, E., Bandini, E., Campone, B., Ferruccio, N., Maseroli, E., Boddi, V., Dèttore, D., Pizzocaro, A., Balercia, G., Oppo, A., Ricca, V., & Maggi, M. (2015). Hypersexuality, Paraphilic Behaviors, and Gender Dysphoria in Individuals with Klinefelter’s Syndrome. The Journal of Sexual Medicine, 12(12), 2413–2424. https://doi.org/10.1111/jsm.13048

Høst, C., Skakkebæk, A., Groth, K. A., & Bojesen, A. (2014). The role of hypogonadism in Klinefelter Syndrome. Asian Journal of Andrology, 16(2), 185–191. https://doi.org/10.4103/1008-682X.122201

Le Gall, J., Nizon, M., Pichon, O., Andrieux, J., Audebert-Bellanger, S., Baron, S., Beneteau, C., Bilan, F., Boute, O., Busa, T., Cormier-Daire, V., Ferec, C., Fradin, M., Gilbert-Dussardier, B., Jaillard, S., Jønch, A., Martin-Coignard, D., Mercier, S., Moutton, S., … Isidor, B. (2017). Sex chromosome aneuploidies and copy-number variants: A further explanation for neurodevelopmental prognosis variability? European Journal of Human Genetics, 25(8), 930–934. https://doi.org/10.1038/ejhg.2017.93

Leggett, V., Jacobs, P., Nation, K., Scerif, G., & Bishop, D. V. M. (2010). Neurocognitive outcomes of individuals with a sex chromosome trisomy: XXX, XYY, or XXY: a systematic review. Developmental Medicine and Child Neurology, 52(2), 119–129. https://doi.org/10.1111/j.1469-8749.2009.03545.x

Winge, S. B., Soraggi, S., Schierup, M. H., Meyts, E. R.-D., & Almstrup, K. (2020). Integration and reanalysis of transcriptomics and methylomics data derived from blood and testis tissue of men with 47,XXY Klinefelter syndrome indicates the primary involvement of Sertoli cells in the testicular pathogenesis. American Journal of Medical Genetics Part C: Seminars in Medical Genetics, 184(2), 239–255. https://doi.org/10.1002/ajmg.c.31793

Skakkebæk, A., Nielsen, M. M., Trolle, C., Vang, S., Hornshøj, H., Hedegaard, J., Wallentin, M., Bojesen, A., Hertz, J. M., Fedder, J., Østergaard, J. R., Pedersen, J. S., & Gravholt, C. H. (2018). DNA hypermethylation and differential gene expression associated with Klinefelter syndrome. Scientific Reports, 8(1), 13740. https://doi.org/10.1038/s41598-018-31780-0

日本語の解説

小児における男性性腺機能低下症—19. 小児科. (n.d.). MSDマニュアル プロフェッショナル版. Retrieved February 14, 2021

内木康博. (2016). 小児科領域における性腺機能低下症. 日本生殖内分泌学会雑誌, 21, 9–12.

テストステロン補充の効果と方法

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