実行機能の中の、苦手な領域 一般的に、クラインフェルターの方は言語的なタスクを苦手とする傾向があり、また自閉症スペクトラム、ADHD(注意欠陥多動性障害)、統合失調症、抑うつ、不安障害をかかえる割合が高いと言われています。 知的障害の発生率は3-4%ですが、これは通常の発生率と変わりありません。 認知機能として何が苦手なのかもう少し細かく見ていきます。 認知機能の中の「」とは、ものごとを筋道立ててやり遂げることがうまくできるかどうか、に相当するものです。 クラインフェルターの方は実行機能の中でも、計画をたてる、概念を形成する、問題解決、タスクの切り替え、素早い反応、はうまくできるのですが、反応抑制が弱いことが示されており、これが感情や思考・行動の制御がしばしばうまくできないことを引き起こしているのではないかと指摘されています。 抑制機能の低さが、言語能力と認知的共感性スコアの低下を生じさせる 言語能力に関しては、言語を受容するよりも表現するほうが苦手です。伝えたいことに対して適切な言葉を見つけたり、文法を駆使して豊かな表現をしたり、スピーチしたりといったことです。 こうしたことが得意ではないと、学校で評価を受けるには不利になってしまいます。 更に、高度な言語能力を発揮するには文章を理解して会話をするだけでは不十分であり、どのような社会的文脈や表情、声のトーンを伴ってその発言がなされたのかを、世間的な知識を駆使して自動的に判断し、適切な反応を返すことが求められます。メタファー(隠喩)を理解する、というのも世間的な常識、知識のベースが必要な、高度な言語能力の中に含まれます。 認知的共感性(社会的文脈が理解できるかどうか)を測る基準として 「心の理論」 という有名なものがあるのですが、クラインフェルターの方でメタファーの理解や、心の理論タスクで得点が低い傾向があるのは、文字通りの意味に反応してしまうのを抑制する機能が弱いせいであるという報告があります (Melogno et al., 2019) メタファーも心の理論テストも、正しく回答するには裏に隠されている意味に気づいてそれを答えないといけないわけですが、思わず表面的な意味に引きずられたまま回答してしまうため、うまく正答できないというわけです。 反応抑制の弱さは、クラインフェルターのマウスモデルでも示されています (Aarde et al., 2019)。マウスの場合は、染色体(XXY vs XY)の影響のみならず、精巣摘除によりクラインフェルターモデルマウスの学習能力が下がることが指摘されています。 ヒトの場合は、男性ホルモン補充により実行機能など認知機能がはっきり改善するという結果は、今のところ得られていません。 認知の柔軟性 あるルールをもとにゲームを行っていたとします。ルールが知らないうちに変わっていて、それに気づかずに前と同じ戦略でゲームを続けると大損することになります。認知の柔軟性が高ければ、ルールが変わったことに素早く気づいて得点を上げ続けることができますが、クラインフェルターの方、およびそのモデルマウスは過去のルールに固執しようとする衝動を抑制するのが苦手なため、認知の柔軟性スコアが低くなります。 この認知の柔軟性の低さが、クラインフェルターの方が上述したような発達障害や精神疾患の症状を表す傾向が高い要因となっている可能性があります。 。 認知の流動性も実行機能の一部ですが、実行機能のスコアはIQが高い、低いとは関係がありませんでした。クラインフェルターの方は思春期後期になると男性ホルモン低下の症状が明らかになってきますが、認知の流動性や自閉症スペクトラムのスコアは、子どもと大人の被験者さんの間で違いは見られず、テストステロン補充による影響も見られませんでした (van Rijn et al., 2012)。 実行機能は、脳の前頭葉が司ります。クラインフェルターの方は前頭葉の発達形状が典型的ではないという指摘がされています。また、実行機能の低さはADHDや統合失調症の症状を示す方にも特徴的に見られます。 統合失調症のリスク要因 11名中4名のクラインフェルターの方が幻聴を経験していたという報告もあるように、統合失調症症状もよく見られます。統合失調症症状の3領域のうち、滅裂思考がもっとも顕著です。古くからあるGeschwindの説として、クラインフェルターの方の認知特性の強み・弱みは左右脳の側性化が典型的ではないことに起因するのではないかというものがありますが(典型的には左大脳半球の活動が右よりも優位であり、言語処理を司る)、それが滅裂思考スコアの高い方では当てはまっているようです (Van
クラインフェルターの苦手領域/生きづらさは実行機能低下に起因する




