症状の多様性
一昔前の内分泌学の教科書では、クラインフェルター症候群(染色体XXY)の身体的特徴として、身長が高く腕が長い「宦官のような」体型、低いテストステロン濃度、ひげや陰毛が少ないこと、小さくて硬い精巣、マイクロペニス、が挙げられていました。現在、これらの特徴はXXY染色体を持つ人たちの一部にしかあてはまらず、特徴は多様であることが知られています。
多くのクラインフェルターの方は、不妊を主訴として泌尿器科でご自身の特徴を知ることになります。テストステロン値が低いことが多いですが、無精子症と乏精子症 がクラインフェルター症候群の最も中心的な特徴です。思春期後期に達した男性で精巣が固く10ml未満の場合には、その他の身体的特徴がどうであれ、クラインフェルターの可能性を調べることをおすすめします。
メカニズム
卵子もしくは精子がつくられる減数分裂のステージⅠもしくはⅡの段階で、染色体がうまく分離できないことによって起こります。
これに対して、受精後に生じる染色体の不分離は、XXYとXYとのモザイクの原因になります。モザイクの方は、クラインフェルターの人たちの1割程度を占めるとされています。
典型的にはテストステロン濃度は低く、LH(Leutenizing Hormone)とFSH(Follicular Stimulating Hormone)の濃度は上昇しています。 LHとFSHは脳下垂体から出る、性腺に活動しなさいという司令を出すホルモン です。そして、エストラジオールの濃度も上昇していることがあります。
テストステロン濃度は出生前から生涯にわたってずっと低い状態でいるわけではなくて、年齢を重ねるほど、特に思春期以降に低下が顕著になることがポイントです。
テストステロン値の低下が見られない方もいます。
気をつけるべき疾患はいろいろ知られていますが、自己免疫疾患や糖尿病、胸・生殖細胞の腫瘍もその中に含まれます。これらの症状が、男性ホルモンの低下によるものなのか、女性ホルモンの過剰によるものなのか、あるいはX染色体上の遺伝子の活動性の違いによるものなのかはよく分かっていない状況です。
生殖補助医療
現在、TESE (生検による精巣内精子回収術)と体外受精を組み合わせた生殖補助医療の試みにより、クラインフェルターの方がご自身の子どもを持つことができる確率は5割以上に上がってきています。
どうやら、クラインフェルター男性のほとんどは、生まれたときには精原細胞を持っているらしいのです。しかしながら、思春期のはじめ、最初の精子生成が行われるころから、精原細胞は大量にアポトーシスを起こして死んでいってしまうと考えられています。
男性ホルモン低下性を引き起こす原因は、ステロイド生成の酵素がうまく発現していないか、もしくは精巣内のエストラジオール濃度が高すぎるためではないかと推測されました。エストラジオールは、テストステロンがアロマターゼ(芳香化酵素)によって代謝されてできるものです。
クラインフェルターの方にアロマターゼ阻害剤を投与することによって、精巣内のエストラジオール濃度を下げ、テストステロン産生と精子産生を改善する効果が見られた、という報告もあります。
健康上のアドバイス
クラインフェルターの方は各種ホルモン値の測定を定期的に受けることが勧められます。特に、コルチゾールです。47%の方で、副腎皮質ホルモンの生成不全が認められるからです。
子どもができた場合について、その子がクラインフェルターとなる確率は一般と変わりありません。
テストステロン筋注をすることにより、精子の回収率が下がる可能性があります(ただし、因果関係ははっきりしていません)。注射はテストステロン濃度を非常に上げて、FSHとLHの分泌を抑制します。筆者たちは精子回収をする前には、より作用の穏やかなアンドロジェルへの切り替えを勧めるそうです。
思春期などまだ若いうちは、自然の射精の中に活動性のある精子が含まれている可能性が高いので、クラインフェルターだということが分かっていたら、できるだけ早く精子を凍結しておくことが勧められます。がんなどで化学療法を受けなければならない人が、精子・卵子を凍結保存しておくのと同じことです。そうしておけば、手術によって精子を取り出さなくてよい選択肢ができます。
将来的には、ライディッヒ細胞(テストステロンや精子の産生の役割を担う細胞)を他の人から移植してもらうことによって、造精機能を回復させるという支援方法の研究も行われているそうです。
Paduch, D. A., Fine, R. G., Bolyakov, A., & Kiper, J. (2008). New concepts in Klinefelter syndrome: Current Opinion in Urology, 18(6), 621–627.
https://doi.org/10.1097/MOU.0b013e32831367c7.